公開日:2026/1/16
ルネサス エレクトロニクス社が提供する32ビットマイコン「RAファミリ」の中でも、最上位に位置するRA8シリーズは、業界初となるArm® Cortex®-M85を搭載したことで大きな話題を呼びました。RA8シリーズマイコンは、ベクトル演算を拡張するArm Helium™テクノロジーを併用することで、AIや機械学習分野への応用の幅を広げています。
そんなRA8シリーズの最新ラインアップとして新たに「RA8P1」が登場しました!
RA8P1は、強力なCortex-M85に加えて、AI専用のアクセラレータであるArm Ethos™-U55 NPU(ニューラル・ネットワーク・プロセッシング・ユニット)を搭載。これによりAI処理性能が飛躍的に向上し、私たちの身近な機器にも「高度なAI機能」をまるごと載せることが可能になりました。
本コラムではこの大注目のRA8P1マイコンに焦点を当て、今回と次回の2回にわたり、その驚きの実力と具体的な使い方を紹介していきます。
1. 概要
(1) AP-RA8P-0Aの概要
「RA8P1」は、RA8M1やRA8D1の流れを汲む、Arm Cortex-M85を採用した最新の超高性能マイコンです。これまでのRA8シリーズの系譜を引き継ぎつつ、演算処理能力をさらに高めており、主に以下の4つの大きな特徴を備えています。
- 256GOPSを実現する「Ethos-U55」NPUを搭載
専用のAIアクセラレータにより、電力効率をしっかりキープしながら、高度な推論処理をサクサクこなします。 - 最大1GHz!圧倒的なCPUクロック性能
Cortex-Mクラスでありながら、ついに1GHzの大台に到達しました。リアルタイムなレスポンスと、力強い処理能力を両立させています。 - Cortex-M33を組み合わせた「デュアルコア構成」(オプション)
250MHzで動作するCortex-M33コアも搭載可能です。「メインの計算」と「通信・制御」を切り分けるヘテロジニアス・マルチコア構成で、効率的なシステムが組めます。 - 次世代メモリ「MRAM」の採用
内蔵ROMには、なんと磁気抵抗メモリ(MRAM)を採用。フラッシュメモリに比べて書き込みが速く、書き換え耐性も非常に高いのが魅力です。
当社でも、このRA8P1を搭載したCPUボード「AP-RA8P-0A」を2026年1月に発売いたします。

| 項目 | 仕様 | 性能 |
|---|---|---|
| CPU | RA8P1 |
|
| NPU | Ethos-U55 | 500MHz・256GOPS |
| FlashROM | CPU内蔵MRAM OctalFlashROM |
1MB 64MB |
| RAM | CPU内蔵SRAM 外部SDRAM |
2MB 64MB |
| Ethernet | 10/100/1000BASE | ×2 |
| USB I/F | USB2.0 Host USB2.0 Host/Funciton |
×1 ×1 |
| カメラ I/F | MIPI-CSI | ×1 |
| LCD I/F | RGB666 MIPI-DSI |
×1 ×1 |
| Pmod I/F | UART/SPI/I2C/GPIO | ×1 |
| SDカード I/F | microSD | ×1 |
| シリアル I/F | SCI | 最大10ch |
| CAN I/F | CAN FD | 最大2ch |
| JTAGコネクタ | CoreSight | 10pin |
| 電源 | - | DC5V (I/O : 3.3V, 1.8V) |
(2) RA8P1の処理性能をチェック !
以前の技術コラム(Vol.16:AI処理にも対応!高性能MCU「RA8」の概要、Vol.18:最新MCU「RA8ファミリ」活用術)では、RA8シリーズのパワフルさを「CoreMark」「CoreMark/MHz」という二つのベンチマークスコアを使ってご紹介いたしました。
新型のRA8P1がどれほどの実力なのか、今回も計測してみました。定番の「RA6シリーズ」や、根強い人気のRXコア「RX700シリーズ」、そして先輩格の「RA8M1/RA8D1」と並べ、その立ち位置を整理してみましょう。
| CPU名(周波数) | コア | CoreMark | CoreMark/MHz |
|---|---|---|---|
| RA6M3(120MHz) | Cortex-M4 | 288.79 | 4.01 |
| RA6M5(200MHz) | Cortex-M33 | 790.76 | 3.95 |
| RX71M(240MHz) | RXv2 | 1160.36 | 4.83 |
| RX72M(240MHz) | RXv3 | 1441.34 | 6.01 |
| RA8M1(480MHz) | Cortex-M85 | 3067.72 | 6.39 |
| RA8D1(480MHz) | Cortex-M85 | 3062.59 | 6.38 |
| RA8P1(1000MHz) | Cortex-M85 | 6362.0 | 6.36 |
| RA8P1(250MHz) | Coretx-M33 | 1012.07 | 4.05 |
-
※EEMBC公式サイト参照。その他数値は当社調べ。
今回のRA8P1のメインコア(Cortex-M85)ですが、ベンチマークを調べてみたところワンチップマイコンとしては、驚異的なCoreMark値「6362.0」というスコアを叩き出していました。
RA8シリーズの第1弾としてRA8M1/RA8D1が登場したときも「なんてパワフルなんだ」と驚かされたものですが、今回のRA8P1はそこからさらにダブルスコア以上の大差をつけてきました。
さらに面白いのが、オプションで載せられるサブコア(Cortex-M33)の実力です。これ単体でも「1012.07」と、十分にメインを張れるほどの性能を持っています。メインコアと力を合わせれば、トータルのCoreMark値は実質7300超。RA8P1のポテンシャルの高さは、従来のワンチップマイコンの概念を考え直さないといけないかもしれません。
一方で「CoreMark/MHz(1MHzあたりの効率)」を見てみると、同じCortex-M85を採用しているRA8M1/RA8D1と実はそれほど大きな差がないことも分かります。つまり、今回の圧倒的なパワーの秘密は、中身がガラッと変わったというよりも「1GHzという超高クロック」によるものです。いわば、パワープレイで限界を突破しているところにあると言えそうです。
また、デュアルコア化やNPUの搭載により、数値以上に複雑なタスクをこなせるRA8P1ですが、高性能ゆえに消費電力やコスト面での検討も欠かせません。プロジェクトの要求仕様に応じて、従来のRA8シリーズと使い分ける「適材適所」で使いこなしていくことが重要です。
(3) 開発環境はどうなっている?
「高性能なのはわかったけれど、開発が大変そう…」と思われるかもしれませんが、ご安心ください。RA8P1の開発は、これまでのRAファミリと全く同じスタイルで進められます。ルネサスおなじみの設定ツール「FSP(Flexible Software Package)」がそのまま使えるので、e2 studioの画面上でポチポチと設定するだけで、RTOSや通信ミドルウェア(TCP/IP、USBなど)、ドライバ類のコードが自動生成されます。
デバッガについても、純正のE2/E2 liteエミュレータはもちろん、定番のSEGGER J-Linkなどサードパーティ製も使用できます。これまでのRA開発で培ったノウハウやコード資産をそのまま活かせます。
さらに、RA8P1の目玉であるNPUを使ったAIアプリケーション向けフレームワーク「Renesas RHUMI」が提供されています。RHUMIは、複雑なAIモデルを「ここはCPU(Cortex-M85)、ここはNPU(Ethos-U55)」といった具合に、最適なリソースへ割り振り実行してくれる賢い仕組みです。GitHubで公開されているので、興味のある方はぜひ覗いてみてください。これを使えばエッジAIの実装がぐっと身近に感じられるはずです。
RHUMIソリューション
https://www.renesas.com/ja/software-tool/ruhmi-framework
Renesas RHUMI Framework
https://github.com/renesas/ruhmi-framework-mcu
2. サンプルプログラムのご案内
RA8M1/RA8D1の技術コラムでは、HeliumテクノロジーやPmodインターフェースを活用した「温湿度管理装置」や「AI監視カメラ」などのアプリケーション例を挙げました。
今回のRA8P1は、NPU(Ethos-U55)とデュアルコア構成の採用により、従来のワンチップマイコンをはるかに凌駕する広範なユースケースに対応可能です。もちろん、街頭での不特定多数の人物検知や、高速移動する車両のナンバープレート解析といった、極めて高いフレームレートと並列処理を要するタスクには、まだ上位のMPU(マイクロプロセッサ)が必要な場面もあるでしょう。しかし、RA8P1であれば、以下のような「産業レベルのエッジAI」を十分にカバーできるポテンシャルを持っています。
- 工場ラインにおける製品の異常分析(外観検査)
カメラ画像から製品のキズや汚れをリアルタイムに判別。NPUによる高速推論により、タクトタイムに影響を与えない検査ラインの構築が期待できます。 - AI搭載ロボットアームの高度な触覚制御
感圧センサの膨大なデータをAIで即座に解析。握る対象物の硬さや形状に応じて、瞬時に握力を調整するような精密なフィードバック制御も、1GHzのCPUパワーとデュアルコアによるタスク分散があれば現実的です。
このように、RA8P1は「マイコン」という枠組みを超え、従来はPCや高価なSoCが必要だった領域、すなわち産業機器のインテリジェント化を加速させる強力なツールとなるはずです。

当社では、お客様がアプリケーション開発を少しでも効率よく進められるよう、CPUボードごとに実践的なサンプルプログラムをご用意しています。今回も「RA8P1」の性能をすぐに体感いただけるよう、以下のサンプルプログラムを準備しました。
| 種別 | 機能概要 |
|---|---|
| メモリ・インタフェース | UART通信サンプル |
| CAN/CAN FD通信サンプル | |
| SDカードの R/Wサンプル | |
| USBメモリの R/Wサンプル (USBホスト機能) |
|
| 仮想COM通信サンプル (USBファンクション機能) |
|
| Ethernet通信サンプル | |
| Pmod | Pmod 8LDサンプル (LED点灯) |
| Pmod OLEDrgbサンプル (OLED表示) |
|
| Pmod USBUARTサンプル (USB-UART変換) |
|
| Pmod ToFサンプル (距離センサ) |
|
| US159-DA16200MEVZサンプル (無線LAN通信) |
|
| ディスプレイ | 画面出力サンプル (LCD-KIT-C02/LCD-KIT-D02) |
| 画面出力サンプル (MIPI-DSI) |
各サンプルの具体的な内容や使い方は、CPUボード「AP-RA8P-0A」の製品ページにある「ダウンロード欄」に掲載のサンプルプログラム解説書で詳しくご紹介しています。まずはサンプルを動かしてみて、RA8P1の圧倒的なパフォーマンスをぜひ肌で感じてみてください!
また、サンプルプログラムの使い方だけでなく、初めてRAファミリを開発する、あるいは、当社CPUボードを初めて使う方向けにチュートリアル資料も用意しています。CPUボードのハードウェアマニュアル・サンプルプログラム解説書は、CPUボードをご購入前の方でもご確認できるのでご一読ください。
3. まとめ
今回は、RA8シリーズに新たに加わった「RA8P1」マイコンと、当社の最新CPUボード「AP-RA8P-0A」の概要をご紹介しました。
Ethos-U55 NPUやデュアルコア(Cortex-M33)を搭載し、まさにAI処理の「本命」といえるRA8P1。PmodやUSBなど、多彩なインターフェースを駆使して最先端のAIアプリケーションを実験する際は、ぜひ「AP-RA8P-0A」をお試しください!
また、当社のRA8シリーズは、RA8P1以外にも以下のラインナップを幅広く展開しています。
- AP-RA8M-0A (汎用)
- AP-RA8D-0A (汎用マルチメディア対応)
- AP-RA8T-0A(モーター制御)
「高度な計算は必要だけど、NPUまではいらないかな…」「モーター駆動を極めたい!」といった、開発現場のリアルなニーズにぴったりの一台がきっと見つかるはずです。ぜひ用途に合わせて、これらも併せてご検討いただければ幸いです。
次回は、RA8P1が持つNPUについて、AIサンプルを使いながらご紹介していきます。
製品のご案内
- ※ArmおよびCortexは、米国および/またはその他の地域におけるArm Limited(またはその子会社)の登録商標です。
- ※記載されている会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
- ※記載の内容は改良のため、予告なく変更する場合がございます。