公開日:2024/12/19
今やモータは社会インフラの様々な場面で組み込まれ、私たちの生活には無くてはならない存在です。
昨今は、ロボット・ドローン・電気自動車など様々な分野でモータ制御が活用されており、より高精度・高応答のモータ制御が求められ、モータ制御プログラムの開発も高度化しています。
今回は、高度化するモータ制御にも対応するルネサス エレクトロニクス社製最新MPU「RA8T1」と、モータ制御開発を容易にする「Renesas Motor Workbench」の概要と使用方法についてご紹介いたします。
1. RA8T1マイコンの概要
RA8T1マイコンは、ルネサス エレクトロニクス社の「RA8ファミリ」の一つで、モータ・インバータ制御に最適化されたMPUです。
Arm® Cortex®-M85コアとArm Helium™テクノロジーを搭載し、DSP(デジタル信号処理)やAI/ML(機械学習)にも対応可能で、強力な演算処理能力と大容量メモリにより、高度なモータ制御システムを実現できます。
RA8については技術コラムVol.16「AI処理にも対応!高性能MCU「RA8」の概要」、Vol18「最新MCU「RA8ファミリ」活用術」でも紹介していますので、併せてご参照ください。
今回は、2024年11月に発表したRA8T1ボード「AP-RA8T-0A」を使用して解説します。
2. Renesas Motor Workbench(ルネサスモータワークベンチ)
(1) Renesas Motor Workbenchの概要
Renesas Motor Workbench(以下、RMW)は、ルネサス エレクトロニクス社が無償で提供しているモータ制御のデバッグおよび解析、チューニングを行うための開発支援ツールです。
モータ制御プログラムを開発する場合、最近ではシミュレーションなどを使い、実機が無くてもプログラムの完成度を上げることが可能になりましたが、やはり最終的には実機を使ってトルクや速度をチューニングする必要があります。
その場合、デバッガなどを駆使して、マニュアルで繰り返し調整点を探ったりするのが一般的かと思います。
RMWは、モータ制御に特化したいわゆるRAMモニタで、モータ制御プログラム開発における実機でのチューニングなどの作業を軽減するツールです。Windows上で操作や状態を表示するGUIと、ターゲットに実装する組込みシステム向け通信ライブラリで構成されており、リアルタイムにモータ制御プログラム内の変数の波形表示、制御パラメータの自動抽出、駆動PWMや周波数のようなパラメータの操作が行えます。
RMWのその他機能や特徴に関しては、ルネサス エレクトロニクス社の以下のサイトをご参照ください。
Renesas Motor Workbench公開ページ Renesas Motor Workbench
(2) RMWの機能
RMWの機能をピックアップして下記に挙げます。
① Easy GUI機能
モータを直感的かつ簡単に操作できるGUI機能です。
マウス・キーボード操作でMCU側へ対象パラメータ(グローバル変数)の値を設定できるほか、指定したパラメータ(例えば、モータ回転数や電流値などを保持するグローバル変数)をメータおよびグラフに表示する機能があります。
② Analyzer機能
パラメータ(グローバル変数)をモニタリングする機能です。
プログラム実行中に動作を止めることなく指定したパラメータをリアルタイムで表示します。また、オシロスコープのようにトリガ条件を設けることで対象のパラメータが変化した瞬間を撮影できます。
その他、例えばテスト用に設定する複数パラメータをワンクリックで一括更新が可能なユーザボタン機能があります。
3. AP-RA8T-0Aでモータを動かす
AP-RA8T-0Aを使ってDCモータを駆動させるプログラムを使って、実際にRMWを使う様子をご紹介します。
今回紹介するDCモータやAP-RA8T-0Aの接続構成は以下の通りです。
本コラムでご紹介するモータ制御プログラムは、「AP-RA8T-0A」のサンプルプログラムとして公開します。
詳細はアプリケーションノート「AP-RA8T-0A Renesas Motor Workbenchサンプルプログラム解説」をご参照ください。
(1) Easy GUI機能の使用例
Easy GUIではスライダを操作させることで対象のグローバル変数を変更できます。
以下、モータの駆動速度をPWMで制御することとし、そのPWMのduty、周期をそれぞれグローバル変数「Ref_duty_in1」「Ref_period_in1」とします。
スライダの操作による波形の変化を、オシロスコープを用いて見ていきます。
① モータ停止状態(duty:0%、周期:10usec)
・PWMをduty:50% 周期:10usecの波形
・PWMをduty:50%、周期:50usecの波形
上図のようにRMW上の画面を操作することで、PWMのdutyや周期用のグローバル変数を変化させ、モータのPWM制御が可能となりました。
またグラフおよびメータでリアルタイムにRPMや電流値が観測できます。
(2) Analyzer機能の使用例
Analyzer機能ではコントロール画面で対象のグローバル変数を変更しながら、グローバル変数の推移図を画面左のスコープ画面で確認できます。
今回はスコープ画面に、消費電流値を示すグローバル変数を一つ登録しました。
実際にPWMを操作してモータを回転/停止させたときの変化を見ていきます。
・モータ回転用のPWMのdutyを0→25%に変化させ、モータを動かし始める際の消費電流
・モータ回転用のPWM信号のdutyを25→0%に変化させ、モータを停止する際の消費電流
4. まとめ
今回は、モータ制御ソリューションの一つとして、RA8T1とRenesas Motor Workbench を中心に紹介しました。
モータは、自動車や家電などの身近なものからロボットやロケットなどの産業・宇宙開発など、様々な用途で使用されており、モータ制御技術は私たちの生活とは切っても切れない重要な技術要素です。
今回ご紹介したRA8T1とRenesas Motor Workbenchは、モータ制御開発をバックアップする大変便利なツールです。まだご利用になったことが無い方は、ぜひこの機会にお試しください。
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