公開日:2025/10/23
私たちの身の回りでは様々な電子機器が活躍しています。こうした機器では処理性能の向上と同時に、消費電力をいかに抑えるかという「電力効率」が、ますます重要なテーマとなっています。
当社の新製品「AP-RZG3-0A」は「RZ/G3S」プロセッサを採用し、先進的な電源管理機能により待機時の消費電力を1mA以下という極めて低いレベルまで削減します。加えて、スリープ状態にあるLinuxからの高速な復帰も実現しています。
本記事では、RZ/G3Sが持つ複数の省電力モードの中から消費電力の最も少ない「VBATTモード」にフォーカスし、その機能について具体的に解説します。
1. 概要
(1) AP-RZG3-0Aの概要
「AP-RZG3-0A」は、ルネサス エレクトロニクス社製RZ/G3Sプロセッサを搭載したCPUボードです。RZ/G3Sプロセッサは、64bit Arm® Cortex®-A55と2つのArm Cortex-M33を採用しています。
<AP-RZG3-0Aの特長>
- ルネサス エレクトロニクス社「RZ/G3S」搭載
- - ARM Cortex-A55
- 最大1.1GHz
- - ARM Cortex-M33 Dualコア
- 最大250MHz
- 大容量メモリを搭載
- LPDDR4-1600 1GByte
- QSPI Flash 4MByte、eMMC 8GByte - 拡張性の高いインタフェース
microSDカードスロット、10/100base-T Ethernet、USB2.0 Host/Function、CAN、A/D、Pmodなど - CAN通信用コネクタを装備
CAN I/F(CAN FD対応)コネクタを2ch搭載 - 対応OS
Linux
(2) 動作モードとVBATTモードの概要
RZ/G3Sの電源ドメイン(PD_VCC、PD_ISOVCC、PD_VBATT)は、内部で3つに分かれています。各電源ドメインを制御により、下記の3つの動作モードをサポートしています。
| 動作モード | 動作 | A55 | M33 |
|---|---|---|---|
| ALL_ON | 全機能動作 | 動作 | 動作 |
| AWO | 一部周辺機能休止 | 休止 | 動作 |
| VBATT | 周辺機能停止 | 休止 | 休止 |
VBATTモードは、RZ/G3S プロセッサが持つ動作モードの1つです。ON/OFF可能な3つの電源ドメインのうち、VBATTドメインを除いた2つをOFFします。これにより、RZ/G3SはDDRのデータを保持しながら、RTCおよび起床機能とバックアップレジスタを除いた全機能を停止します。
下図は動作モードと電源ドメインの関係です。
<VBATTモードの特長>
- 低消費電力
RZ/G3Sプロセッサが通常動作モード(ALL_ONモード)からVBATTモードに移ると、プロセッサはRTC、DRAMなどの一部の機能を除いた全機能を停止し、消費電力を低減します。 - Linux高速復帰
VBATTモードのRZ/G3Sは、DDRをセルフリフレッシュモードに設定しデータの保持を行います。これにより、VBATTモードからの高速復帰が可能です。
2. Linuxのビルドと動作確認
VBATTモードの動作を確認するため、「AP-RZG3-0A」用のLinuxカーネルおよび動作に必要なファイルを作成します。
作成には yocto の bitbake を使用します。
$source poky/oe-init-build-env$MACHINE=rzg3s-aprzg30a bitbake -k core-image-bsp
bitbakeが完了するとLinuxの起動に必要なファイルが出来上がりますので、「AP-RZG3-0A」、PC、電源を用意し以下のように接続します。

「AP-RZG3-0A」をSCIFブートで起動し、eMMCブートに必要なファイルをeMMCにロードします。
ファイルの書き込み後、改めて「AP-RZG3-0A」を起動します。
- 1)Linuxの起動
「AP-RZG3-0A」をeMMCブートモードで起動します。「AP-RZG3-0A」を起動するとコンソールに起動ログが表示されます。 Linuxの起動を待ってログインします。
Poky (Yocto Project Reference Distro) 3.1.33 rzg3s-aprzg30a ttySC0BSP: RZG3S/AP-RZG3-0A/3.0.7LSI: RZG3SVersion: 3.0.7rzg3s-aprzg30a login:rootroot@rzg3s-aprzg30a:~#このとき、「AP-RZG3-0A」の起動からログインプロンプト(rzg3s-aprzg30a login:)の表示まで約20秒かかります。
- 2)VBATTモードへの遷移
VBATTモードに遷移するため、以下のコマンドを実行します。#echo deep > /sys/power/mem_sleep#echo mem > /sys/power/statePM: suspend entry (deep)Filesystems sync: 0.001 secondsFreezing user space processes ... (elapsed 0.001 seconds) done.OOM killer disabled.Freezing remaining freezable tasks ... (elapsed 0.001 seconds) done.printk: Suspending console(s) (use no_console_suspend to debug)-
※実際のログにはタイムスタンプが表示されます。
-
- 3)VBATTモードからの復旧
VBATTモード状態から復帰するには、「AP-RZG3-0A」のSW2(WAKE)を押下します。NOTICE: BL2: v2.7(release):cca4398NOTICE: BL2: Built : 16:49:46, Jan 30 2025NOTICE: BL2: Resume(vbat)NOTICE: BL2: Booting BL31...Restarting tasks ... donePM: suspend exitroot@rzg3s-aprzg30a:~#kernel の復帰が完了すると、プロンプトにroot@...の文字列が表示されます。復帰後は通常通りのLinux操作が可能です。
3. 比較
「AP-RZG3-0A」のLinux待機状態とVBATT状態での消費電流は以下のようになります。
Linux待機状態の消費電流 : 約110mA
VBATT状態の消費電流 : 約0.500mA
電源ONからのLinux起動時間とVBATT状態からの復帰時間を比較すると、以下のようになります。
| 電源ONからのLinux起動 | 約20秒 (電源投入~ログイン表示まで) |
|---|---|
| VBATTからのLinux復帰 | 約1秒 (ボタン押下~コンソール復帰まで) |
以上の比較の通り、「AP-RZG3-0A」をVBATTモードで駆動した場合、待機消費電力は1mA以下で、約1秒での高速なLinuxシステム復帰が可能です
4. まとめ
今回は、「高性能」と「省電力」を両立するRZ/G3Sプロセッサの低消費電力機能にフォーカスしてご紹介いたしました。
「AP-RZG3-0A」の心臓部であるRZ/G3Sプロセッサは、Cortex-A55コアによる高い処理能力が特長です。パワフルな性能を活かしながらも、優れた低消費電力機能を用いることで、システムを完全に停止させることなく待機状態へ移行できます。
これにより、普段は消費電力を大幅に抑えつつ、必要な時にはシステムを瞬時に起動させるという、非常に効率的で理想的な運用が可能になります。
「AP-RZG3-0A」では、この便利なVBATTモードの動作をすぐにご確認いただけるアプリケーションノートを提供しています。高性能と省電力、そして高速起動を兼ね備えた「AP-RZG3-0A」をぜひご検討ください。
製品のご案内
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